ファーグリムと別れた後、ワシは教えてもらったシュラグの元へと向かう。途中、通行人に声をかけることも忘れない。
……ん? なんか、よくわからない間にワシ、もしかして初めて「物乞い」成功してる?
手の中には確かに11クラウンがある。
うおおおお! これが「物乞い」! 凄い!
ワシは時間差で喜びに打ち震えた。生まれ変わってから初めての成功体験だ。
なぜうまくいったのだろうか? 話しかけた時に女性が近くにいて格好をつけようとしたのか? それとも単純な優しさから?
いまのワシには答えはわからないが、とにかく嬉しかった。これを続けていけばいずれ何か掴めるような気がした。
まあ、結局そのあとはシュラグの元に辿り着くまでに「物乞い」が成功することはなかった。人生そんなもんだ。
駅から少し離れたところにある路地裏の中に立派なホームレスハウスが建設されており、その前に座っている男、それがシュラグだった。
ワシ「よお、相棒! これは随分と立派な家だな。羨ましいよ」
シュラグ「まあな。最も、この家も人生で最良ってわけじゃないけどな」
そう言ってシュラグはふふんと鼻を鳴らす。
シュラグ「今じゃ考えられないほど立派な家に住んでいたこともあるんだぜ」
ワシ「それは凄いな」
シュラグ「ところであんたとは初対面であってるか?」
ワシ「ああそうだ。教えてほしいことがあってここへ来たんだ。ファーグリムに教えてもらってな。少しいいか」
シュラグ「ああいいぜ」
そう言ってシュラグは肩をすくめた。余談だが、この肩をすくめる行為を『shrug(シュラグ)』という。これがこの男の癖なのかもしれない。
ワシは記憶がないことや、その理由を探っていることなどを簡単に説明する。
シュラグ「ふーん、悪いが心当たりがないね。だが、マスターならなんか知ってるかもな」
ワシ「マスター?」
シュラグ「ああ。陸橋のそばのキャラバンに住み着いている偏屈爺さんだよ。なんでか知らないがなんでも知っているんだ。魔法が使えるのかもな。知らんけど」
そう言ってシュラグは地図にマスターの場所をマークしてくれる。
ワシ「ありがとうシュラグ。また来るよ」
シュラグ「ああ相棒。困った時はお互い様だ。ちなみに、俺はここで服も売買してる。なんだったら少し見ていくか?」
ワシの所持金は43クラウン。これでは何も買うことはできないだろう。
ワシ「また今度にするよ。とにかく助かった。ありがとう」
シュラグは肩をすくめつつ手を振った。寒さが厳しくなればシュラグの世話になって服を新調する必要も出てくるかもしれない。ワシはこの場所のことを覚えておくことにした。
結局、ワシは目覚めたゴミ捨て場の近くに廃棄されたキャラバンの近くまで来ることとなった。そろそろ頭痛の原因について情報が欲しいところだ。
その車はもう二度と走り出すことはない状態だったが、雨風を凌ぐことができる立派な住居として活躍していることは間違いなかった。この中にマスターがいるらしい。
キャラバンのドアをノックし、挨拶する。
ワシ「こんにちは。マスターはいるかい?」
ドア越しに返答があった。
マスター「ワシがマスターだ。お前は誰だ?」
ワシ「それを思い出すためにあんたのものに来たんだ。最近この辺りであったパーティーで記憶を失っちまったらしいんだが、何か知らないか?」
マスター「ふん、知らんな」
結局ここもハズレだったか。ワシは内心でがっくりと肩をおとす。
マスター「だが……、そうだな。ここにドラフトビールがあれば思い出すかもしれんな」
ワシ「信じられないんだが」
マスター「この無礼者め! ワシはマスターじゃぞ! ワシの知恵をタダで借りられると思うな!」
まあ、現状マスターが空振りなら完全に手がかりがなくなってしまう。ワシは藁にもすがる思いでマスターの要望を聞くことにした。
納得できない部分はあったがね。
¥¥¥残金:43クラウン¥¥¥