第33回 ホームレス、始めての友達

 目を覚ますと、いつもの青空――ではなく、暗闇の中だった。

 ワシは、確かここで酒を飲んで……。

 だめだ。その後がどうしても思い出せない。やけに体がだるいのと、頭の痛み、喉の痛み、胃のムカムカ、若干の吐き気、目を開けているのが辛い、口の中カサカサ、手足の冷え、膀胱の限界、首の痛み、鼻詰まりなど、体調はこれでもかと言うほど良くないが、なんとか生きている。とりあえずトイレと水を飲みたい気分だ。

 最後の記憶を頼りに予想すると、ここはおそらく酒徒のアジトなのだろう。光がないので時間帯は不明だが、静かさからして真夜中なのかもしれない。ワシは力の入らない足に無理やり力を込めて立ち上がり、悲鳴を上げている腰をどうにかごまかしながら手探りでトイレを探し始める。

 トイレが見つかったのはそれから10分後のことだった。あと少し遅れていたら……ゾッとする。

 用を足した後、手持ちのバックからミネラルウォーターを取り出しゴクゴクと飲む。寝起きの水はなぜこんなにまずいのかは人類永遠の謎だ。それでも、喉はうるおい、胃のムカムカも若干治った気がする。

 トイレが見つかったおかげで大体の位置関係は把握できた。とりあえずいつもカーディナルがいる場所へ向かう。

?「よお、元気か?」

 道すがら、誰かに呼び止められる。明るさを最低にした懐中電灯に照らされたその男は先日助けたばかりのジェキンスだった。

ワシ「ああ、最悪だぜ。アンタは無事にもとに戻ったみたいだな」

ジェキンス「ああ。おかげさまでな。まるで悪夢から目覚めたような気分だよ。あのときの俺はどうかしてた」

 ジェキンスは遠い目をしながら語る。ずいぶんと反省している様子だ。

ジェキンス「カーディナルから聞いた。アンタが俺を正気に戻してくれたってな。改めて礼を言うよ。ありがとう」

ワシ「良いってことよ」

ジェキンス「これは感謝の気持ちだ。受け取ってくれ」

 そう言ってジェキンスが差し出してきたのは高級タバコとそれにみあうケースとライターだった。

ワシ「いいのか? これってかなり高級そうだが」

ジェキンス「受け取ってくれ。これを機に禁煙もしたいんだ。もう、薬物中毒はコリゴリだからな」

 それもそうか。

 ワシはせっかくだからと遠慮なく受け取ることにした。

ジェキンス「それとは別件でようもあるんだがな、まずはカーディナルにあってきなよ」

ワシ「そうか。じゃあまた後で来るよ。それじゃ」

 酒徒メンバーの中でも、ワシの信頼貯金は順調に貯まっていっているようだ。このまま手助けを続け、酒徒の悩みを解消していけばザッヒ(酒徒のリーダー)が物乞い王に立候補する理由もなくなり、ワシに投票してくれるようになるだろう。ワシの感覚的に、あと少しで思い描いたとおりの結果になるはずだ。

 カーディナルに会いに行くと、すでにカーディナルも起きていた。

ワシ「よう相棒。昨日は楽しい時間だったぜ」

 実際は何も覚えていないのだが、あえて調子良く話しかけてみる。

カーディナル「試練が終わった途端に気を失ったくせによく言うよ。今回は記憶は大丈夫か?」

 カーディナルがからかってくるが、嫌な気分にはならない。友達って、こういうやつのことを言うのかもしれないとふと思った。

ワシ「ああ、どうだろうな。ワシは家も金も職もない。社会の最底辺に位置する人間で、つまり、これからの人生は向上するしかないスーパーハッピーな男ってことは覚えてるぜ」

カーディナル「なら大丈夫だな。頭がおかしい奴をウチのリーダーが呼ぶはずがないからな」

ワシ「ザッヒがか?」

カーディナル「ああ。アンタを呼んでこいってさ。今回はずいぶんと驚いていたみたいだ。正式な儀式で酒仙になったヤツは数年ぶりだからな」

 少しは認めてくれたってことだろうか。とりあえず、悪い話をされるわけではなさそうで安心する。

ワシ「早速あってくるよ」

カーディナル「ああ。きばってこいよ」

 カーディナルとグータッチをして別れる。

 さて、何を話されるのか。

 期待と不安が半々な状態でザッヒのもとへと向かった。

¥¥¥残金:6151クラウン¥¥¥

・バッドステータス

◯なし(二日酔い)

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