第34回 物乞い王になる理由

 酒徒から酒仙へとランクアップを遂げたワシは、グループのリーダーであるザッヒに呼び出されていた。

 何の用事かはまだ知らされていない。悪い話でないことを願う。

 暗い穴蔵の奥の奥、そこがザッヒの居所だ。焚火の火だけが光源のこの世界で彼はドッシリとソファーに腰掛けて待っていた。

ザッヒ「よお、来たな」

ワシ「ああ。何か用事があるって聞いたもんだからな。どうしたんだ」

ザッヒ「ここ最近、アンタの話を聞かない日はないぜ。グループ内で自由じゃない生き方をみんなに説いているんだって?」

 街での慈善活動のことを言っているらしい。確かに、再び同じことが起きないように街での過ごし方についてカーディナルからレクチャーしてもらうように頼んだのはワシだ。

ワシ「ああ、そうだ。どうやら、このグループでは自由と自分勝手を履き違えているヤツが多いみたいだったからな」

ザッヒ「奴らの大半は支配体制のせいでああなっちまったんだ。なあ、それでも奴らもまだ人間だろう? 他の奴らと同じように生きる権利も、この支配体制に復讐する権利もあるだろうが」

 大きな声ではないが、静かな怒りを燃やしながらザッヒが睨みつけてくる。

 ここでの回答を間違えたらこれまでの努力がパーになるような雰囲気がビンビンだ。それでも、ワシはワシの考えていることを正直に話すことにしている。

ワシ「そうだ、アイツらは被害者だってことはワシもカーディナルから聞いている。ただ、支配体制に対する復讐といったか? やり方が間違っている。あんなことを続けていたら、いずれこの街から締め出されるだけだ。本当の意味で復讐をしたいなら、まずは意見を言える立場になることが第一条件だ」

ザッヒ「あん?」

ワシ「正直に言って、この街での今のホームレスの扱いはほぼゴミ同然だ。ホームレスのためのシェルターは取り壊され、炊き出しも終了、なんなら街での規制も強化されてホームレスは動きにくいったらありゃしない有り様だ」

ザッヒ「それはそうだ。だから、この支配体制に復讐する必要があるじゃねえか」

ワシ「復讐してどうなる? 市民からの苦情が出て、それを免罪符にますます規制は強化、やがてこのまちからホームレスは根絶されるだろうな」

ザッヒ「そうさせないために、俺達のやり方でわからせてやるんだ!」

ワシ「それじゃダメだ。その方法はむしろ管理局の思う壺だろう」

ザッヒ「じゃあ、どうしろってんだ!」

 イライラが頂点に達したザッヒが大声で叫ぶ。

 ここだ、今が攻め時!

 ワシはいっきに畳み掛ける!

ワシ「逆だ。この街にホームレスが必要だって教えてやれば良い。街に必要な慈善活動を行い、経済活動をする。ホームレスが一丸となってこの街の血液となればもはやこの街から追い出すことはできない。それどころか、ホームレスは数だけは多い。つまるところそれはホームレスが市民権を得た場合は発言力があるということだ。ゆくゆくはホームレスにとって住みやすい、いや、ホームレスがホームレスじゃなくなるような施策だって実行させることができるかもしれない」

 ザッヒは起こった顔のまま口を開けて固まっている。ただただワシの言葉の意味を理解しようとしているみたいだ。

ザッヒ「アンタ、どこまで考えている?」

ワシ「ワシは、この街でホームレスが助け合うことが大切だと教わった。今度はワシがこの街のホームレスを助ける番だ」

 記憶がなくなり、なにもないワシがここまで生きてこられたのは多くの仲間に助けてもらったからだ。一番最初に学んだことも助け合うことだった。

ザッヒ「アンタ……でけえな」

ワシ「せっかく生きているんだ。でかい夢を追わなきゃ楽しくないだろう」

 ザッヒはしばらく口を閉ざし何かを考えている。

ザッヒ「アンタの心意気はわかった。だが、まだ完全に信頼できるわけじゃねえ。ここにはここのルールやスジってもんがある。アンタの言ったことは今は所詮夢物語だ。全員のホームレスが助け合うなんてことはできたら凄いことだが、できなきゃただのピエロだ。だから、あと少し、アンタを見定める」

ワシ「ザッヒ、アンタはここのリーダーだ。責任がある。慎重に見定めてくれ」

 ザッヒは神妙に頷く。

ザッヒ「じゃあ、アンタが引き起こしたヒズミってやつを解消してもらおう。お利口なだけじゃ権利が奪われるだけだ。ここ最近、他グループの奴らが俺達の縄張りを奪って我が物顔で占拠してる。これを解決してくれ」

ワシ「最後の試練ってやつか?」

ザッヒ「いや、この依頼が終わったら本当の最後の試練を与えよう。もし、それを乗り越えたら、物乞い王はアンタに譲るよ」

 ついに来た!

ワシ「その言葉がずっと聞きたかったんだ。いいだろう。その悩みも試練もどっちも解決してやる」

ザッヒ「期待してるよ」

 ようやく酒徒グループでのゴールが見えた。

 あと少し、ワシは気合を入れ直し、まずは事件の詳細をカーディナルに聞くことにした。

¥¥¥残金:5093クラウン¥¥¥

・バッドステータス

◯酔っ払い(軽度)

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