マーティンとの契約がうまく行った後、ワシはそのことを報告しにカーディナルの元へと戻った。
ワシ「記者とあった。うまく話を聞くことができたよ。これからワシがホームレスの殺人事件について情報を集めて、記者と共有することになった。その過程でここでの毒盛りの犯人もわかるはずだ」
カーディナル「噂には聞いていたが、すごいな。もう取り入ったのか」
ワシ「取り入ったとは人聞きが悪い。仲良くなったと言ってほしいね」
カーディナル「そうか、そうだな」
なんだろう。今日は普段と比べて明らかにカーディナルの歯切れが悪い気がする。心なしか頬も少しコケているような気もする。
ワシ「カーディナル、なにかあったのか? だいぶお疲れの様子だが」
カーディナル「わかるか? 最近ここの運営が滞っていてな。いろいろと問題が起きてるんだ」
ワシ「ワシでよければ手伝うが?」
カーディナル「それは助かる。ぜひどうにかしてほしいもんだ」
そう言ってカーディナルは乾いた笑みを浮かべる。本当に困っていたんだろう。全体的に力がない様子だ。
カーディナル「何から話せばいいのか……まずは食糧問題だ。今日食べれないヤツが大勢出るほど食料の備蓄がない。それにウチの連中が外で騒いだせいなのかここらへんのホームレスの評判がかなり落ちている。このままだと警察に目をつけられて今以上に動きにくくなっちまう」
ワシ「食糧問題はどうしたらいい?」
カーディナル「食糧問題についてはいつも状態の良い食料を手に入れていたホテルのゴミ箱があるんだが、最近になって鍵付きのゴミ箱になっちまった。そのせいでゴミ漁りができなくなって困ってるってわけだ」
なるほど、そっちはピッキングで鍵の番号を判明させること、ホテルの従業員にバレないように素早くゴミ箱ダイブをする技術の2つが必要になりそうだ。
ワシ「評判の回復はどうする?」
カーディナル「ここらへんにある店だったり公衆トイレだったり、そういった場所で何かしら評判を回復させるようなアクションを起こせればしばらくは大丈夫になるはずだ」
ワシ「いまと同じように何かしらの問題を解決してやればなんとかなるかな。とりあえず行ってみるよ」
カーディナル「ここの運営はもはやアンタにかかってると言っても過言ではない。頼んだぞ」
少しずつ、だが確実にここでの信頼を得ている実感を得つつまずはホテルのゴミ箱に向かう。
ホテルエスポワール。客室が多くビジネス客をメインターゲットにしたホテルで、高級ホテルというわけではない。が、もともと高級レストランで働いていた一流の名物シェフが一人おり、料理が最大のセールスポイントであるホテルだ。ビュッフェスタイルで料理が提供されることから毎日大量の廃棄物が出る。しかもその質は非常によい。という話をカーディナルから聞いた。
そのゴミ箱はホテル裏口のすぐ横にあった。オレンジ色をした大きなゴミ箱で非常に目立っている。
ワシがやることは以下のとおりだ。
1.ゴミ箱にかかっている鍵を解錠する。
2.バレないように素早くゴミ箱ダイブし、必要な量だけ食料を調達する(全部持っていくとゴミ箱漁りしたことがバレてしまうため)
3.再び鍵を閉める。
4.ミッションコンプリート
そのために重要なのは狙う時間だ。ワシはまず時間をかけてじっくりとホテルのタイムスケジュールを頭に叩き込んだ。
その結果、ゴミ漁りに大切な情報がいろいろとわかった。まず、ビュッフェは朝と夜の2回行われる。朝のビュッフェは9時まで。夜のビュッフェは19時までだ。ゴミが捨てられるのはビュッフェが終わってから1時間くらいの間が多い。この時間を狙えば良いわけだが、問題は従業員が裏口から出てきて喫煙することがあること。運悪くそのタイミングに被ってしまうとワシのことがバレてしまう。あくまでバレないように行うことが大前提だ。
ゴミが捨てられた直後は従業員の多くが皿洗いとホールの清掃作業に入ることからわざわざこの時間に喫煙するヤツはいないと考えられる。逆に考えるとその作業が終わったら一息つくために喫煙するヤツが多い。
また、夜の時間帯は裏口に近づくと自動でセンサーライトが点灯してしまい、裏口についている小窓から目立ってしまう可能性が高い。狙うなら朝のタイミングだ。
つまり、ワシは朝9時頃から裏口に張り付き、ゴミが捨てられた直後を狙ってピッキングとゴミ箱ダイブを行えばいいということだ。
ワシは物陰に隠れてじっくりとその時を待つ。
そして、ついにその時が訪れる。
9時半ごろ、ホテルの裏口が開いて大きな袋を持った従業員がゴミ箱へその袋を放り込む。
扉が完全にしまったことを確認してからワシはサッとゴミ箱まで走り、急いで鍵の解錠作業に入る。
カチャリ
よし、ピッキング成功。極力音が出ないようにゴミ箱の蓋を開け、急いで大きな袋を2つほど取り出す。
その後は再び蓋に鍵をかけて両手に袋をもち、急いでこの場を退散する。
ミッションコンプリートだ!
ワシはホクホク顔でカーディナルもとへと戻り、小分けにした食料の詰まった袋を手渡す。
食糧問題についてはこれでしばらくは大丈夫だろう。
残る問題は評判の回復だ。
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◯なし