酒徒の縄張りを荒らしている、いわゆるはみ出し者のグループを説得すべく、違法売買グループの秘密のアジトに向かう。秘密の割には関係のないワシにホイホイと場所を教えてしまっているが、大丈夫なのだろうか。
あと、一言断っておくと、ワシは薬物はめちゃくちゃ嫌いだ。できれば関わりたくないし、可能なら潰してしまいたいとさえ思っている。あれは今後、この街を良くするためには不要なものだ。
だが、その嫌いなことをしているグループのリーダーは物乞い王への投票権を得ている。つまり、なんとかワシに協力してもらうような関係性を構築しなければならないのだが、どうしたもんか。
そうこうしているうちに教えてもらった入口まで辿り着く。そこは街なかにある至って平凡なビルと家との間にあるちょっとした隙間だ。やけに暗いその隙間を進んでいくと、角を2つ曲がったところで大きな空間につながる。ここがアジトなのだろう。
アジトに入ってまず感じたのはその異様な臭いだ。単純に臭い。この前掃除した公衆トイレと同じ香りが空間に充満していた。なんならちょっと吐きそうになるのをこらえるのに必死だ。
意識して口呼吸をしながら進むと、寝転がっている男を発見する。第一村人ってやつだ。早速話しかけてみる。
ワシ「よお。廃駅にいる男からここを紹介されたんだが」
様子のおかしい男「ああへえ。う、う、ううぅぅぅぅ」
声をかけるとこちらを振り向きはするが目の焦点があっていない。ろれつも回っていない。
ワシ「そうか、ありがとう」
ワシは足早に男から離れる。目の焦点はあっていなかったが、あの目は確実に何かを期待していた。あのまま話していたら襲われるかもしれないと本能が告げた。
どうやらワシはとんでもないところに来てしまったらしいと今更ながら気が付き、寝床に帰りたくなった。
しかし、酒徒の投票を得るためにはここで変えるわけにはいかない。クロール(酒徒の縄張りを占拠している男)の話が正しければここにモイザーというリーダーがいるはずなのだ。ワシはもう少しここで粘る覚悟を決めた。
迷宮のように入り組んでいる空間をしばらく当てずっぽうで歩くと、突然ソファーに腰掛けた男とであう。あまりにも突然だったのでワシはびっくりして思わず悲鳴をあげるところだった。相手の表情をみるとあちらさんも同様に驚いている様子だ。
……ん? ということは、ようやくまともな人間に出会えたってことか!
ワシ「よお相棒。ここは、その、なんだ。変わったところだな」
いつものように褒めることから会話を始めようとしたがいいところが一つも見つからなかった。
ラムゼイ「ああ。全く最悪な場所だぜ。で、あんた誰? 見たところ警察じゃなさそうだけど」
ワシ「ワシはクロールにここを教えてもらって来たんだ。キティさん? の手伝いで来たって言えばわかるって聞いたんだが」
ラムゼイ「なるほど。事情はわかった。早速手伝ってほしい……と言いたいところだが、まだキティと合わせるには信頼が足りないな」
ラムゼイはもったいぶるように話を進める。これまでのホームレスとは明らかに会話の進め方が違う。どちらかとアナトリー(質屋:第14回〜登場)のような商売人のような雰囲気を感じる。日頃から取引を行っているヤツの話し方だ。
ワシ「信頼を得るには何をすればいい?」
こういうタイプに対する返答は完結で要点を抑えたものがベストだ。ワシは日々の物乞い生活のおかげである程度の会話力は手にしていた。
ラムゼイ「ここの空間、臭いが最悪だろ? そこらへんのヤク中共が所構わず排泄をした結果がこれだ。アンタにはここの臭いをどうにかしてほしい」
ワシ「……なるほど。快諾したい気持ちでいっぱいだが、ワシにできるのは臭いの発生源をどうにかすることくらいだ。染み付いた臭いまで落とすには時間に解決してもらうか、本格的な掃除用具が必要だ。ワシが道具を持っているようにみえるか?」
ラムゼイ「ふうん。まあ、できないなら仕方ないな。できる限りのことをやってくれるだけでいいよ」
ワシ「承知した」
男は多少不満そうではあったが、納得はしてくれたようでワシの要求を了承した。公衆トイレの掃除経験から得意とまでは言えずとも、多少は慣れた。嫌なことはさっさと終えてしまうに限る。ワシは早速作業に取り掛かることにした。
¥¥¥残金:5703クラウン¥¥¥
・バッドステータス
◯便意(軽度)