第24回 バーでの名誉回復

 酒徒が抱えている問題のうち、食糧問題については解決することができた。

 残る頼まれごとは酒徒の名誉を挽回することだ。

 カーディナルによると、ちょっと前まではほとんど無条件に酒徒メンバーとしてホームレスを受け入れていたらしい。それが原因で管理が行き届かなくなり、これまでうまく回っていた食料配給なども滞ることも増え、食料が回ってこないことにイラついたメンバーが外で暴れることで評判が落ちに落ちている。という顛末らしい。

 そういうこともあって最近は新しいメンバーの募集は打ち切っていたとのこと。ワシが久しぶりの新規加入メンバーだ。

 酒徒メンバーが外で暴れたとは聞いているが、具体的にどんな迷惑をかけているのかは聞いていない。

 カーディナルによれば付近の公衆トイレやお店に行けばなにが起こったのかわかるという話だ、とりあえず行ってみよう。

 ワシがまず向かったのは酒徒の拠点から少し歩いたところにあるバーだ。以前にマスターのお使いでビールを注文した時に利用した店だ。

 日当たりの良い大道路沿いにあるこの店は規模がそこまで大きくはない。店主の若い女性が一人で切り盛りしているのだが、男顔負けのいわゆる姉御肌であるため隠れファンが多く、お店は常に誰かしら入っているにぎわいのある店という印象だ。

 まずは話を聞いてみないと何もわからないためとりあえず入店する。

 ドアを開けるとカフェに付いているような小さいベルが美しい音を鳴らし、ワシが入店したことを知らせる。

ハンナ「いらっしゃい……あなた、もしかしてホームレス?」

ワシ「やあ、こんにちは。いかにも、ワシはここらへんに住んでいるホームレスだが」

 今回はホームレスの汚名を返上するという目的のため、ワシがホームレスだと一目でわかるようになるべく酒徒のメンバーと同じような服装をしている。

ハンナ「あなた達に売れるものはないわ。もうしわけないけど、この店から出ていってくれるかしら?」

 いきなりの入店拒否。いったいあいつらは何をしでかしたんだか。

ワシ「いや、今回はものを買いに来たんじゃないんだ。その、なんだ。なにか困っていることはないかと思ってね。ふだん迷惑をかけているからさ」

ハンナ「……なにが狙いだい?」

ワシ「いや、言葉どおりの意味しかない」

ハンナ「ここに来るホームレスは金も持たず来てツケでしか飲まないどころか、酔っ払って暴れて店を追い出すのも一苦労。そのお仲間が? 何をしたいって?」

ワシ「あー、信じてもらえないのは重々承知しているつもりだが、その、少しでも助けになりたいと思っていることは本気だ。なにか困り事があるのなら教えてほしい」

 ワシはハンナの目を見ながら真摯に伝える。しばらくハンナもこちらを観察しているようだったが、やがて根負けしたとばかりに大きなため息を付きながら話を続けてくれる。

ハンナ「……はあ、やれやれだわ。なんでそんなに私を手伝いたいんだか。いままでの酔っぱらいの役立たず共は誰一人としてそんなことを言うやつはいなかったのにねえ」

ワシ「ほら、ワシがその一人目になりたいんだ。なにかないか?」

ハンナ「そうは言っても、私が困っていることはあまりないよ。でも、そうだね。助けてくれるって言うならそこにいるお客さんの面倒をみてやってくれよ」

ワシ「問題児なのか?」

 ワシは昼時にもかかわらず、奥でテーブルに突っ伏して寝ている男を見やる。

ハンナ「まあ、凄い問題児っていうわけじゃないんだけどね。ここの常連客で普段は落ち着いている人だよ。ただ、時々今日みたいに高い酒をガブガブのんで酔いつぶれることがあってね。別にそこで寝ているだけならそこまで問題じゃないんだけど、そういう時は決まってツケで飲むんだ。これまでは数日のうちにきちんと払ってくれていたけど、今回は大丈夫か聞いた時にだいぶ渋い顔をしていてね。払えるか心配なんだよ」

ワシ「なるほど、ちょっと調べてみるよ」

 ワシは席を離れて寝ている男に声をかける。

ワシ「よお、調子はどうだ」

 かなり酔っ払っているようだ。突っ伏した顔を上げようともしない。

ワシ「ツケ払いの時間だよ」

お客「金ええええ? んなもんないし、知らねえええええよ。あ、あれをうればああぁぁ……zzz」

 ……眠ってしまった。

 こいつは料金を滞納している。何か金目のものがないか調べてみるとするか。

 ワシはスリで磨いた技術で気づかれないようにポケットの中を漁る。

 お、何かある。

 手の感覚を頼りにポケットから何かを引っ張り出す。

 引っ張り出したそれは宝石がついたネックレスだった。どこからどうみてもコイツが身につけていたものには見えない。完全に女性向けのネックレスだが、換金すれば結構な値段になりそうだ。

ワシ「悪いが、コイツは預からせてもらうよ」

 ワシはネックレスを回収し、そのままハンナに報告する。

ワシ「金は持っていなかったが、ネックレスを持っていた。これがあれば借金返済の足しになるだろ」

ハンナ「見せてみて」

ワシ「これだ」

 ワシは回収したネックレスをハンナに手渡す。

ハンナ「ふむふむ、これは返済のためのものよね?」

ワシ「そうだ」

ハンナ「わお、最高。これがあれば彼も現金でツケを払ってくれるかもね。払ってくれなくてもこれならツケ分ぐらいの売値にはなりそう。とにかく集金は終了ってわけね」

ワシ「少しはお役に立てたかな」

ハンナ「そうね。控えめに言って期待してなかったけど、すごく助かったわ。アンタがいなければアイツからお金を集めることはできなかったろうし、貴重な常連を失うことにもなりかねなかった。協力ありがとう」

ワシ「これからは迷惑をかけないように仲間にも強く念押ししておくよ。今日のところはいいホームレスもいるってことを覚えておいてくれたらそれで十分だ。また来るよ」

ハンナ「そうだね、覚えておくよ。これはお礼だ。受け取って。アンタみたいな客なら大歓迎さ。またおいでよ」

ワシ「ありがたく受け取ろう。それじゃまた」

 これで少なくてもこの店でのホームレスの評判は回復しただろう。

 ワシは確かな手応えを感じつつ、勝利のビールを流し込む。

 ……くぅー、人仕事終えた後のビールは染みる!

 次の目的地は公衆トイレだ。ワシはいい気分で歩き出した。

¥¥¥残金:1711クラウン¥¥¥

・バッドステータス

◯なし

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