カーディナルから頼まれた仕事のうち、ワシは酒徒の名誉回復のために奔走している。
昨日は近くのバーに行き、酒代を支払えない男性から宝石を回収し、酒代代わりとして店主に献上した。
他に迷惑をかけそうな場所といえばどこだろう。
行先を決めずになんとなく歩きながらワシは考える。酒徒のメンバーが行く場所といえばお酒関係の場所が多いはずだが……あ、トイレなんかどうだろう。
飲みすぎた奴の定番の駆け込み寺といえばトイレだ。確か、酒徒のアジトからそこそこ近いところに公衆トイレがあったはず。まともな連中ならともかく、ここで酒徒のメンバーが大人しくトイレだけするはずがない。
そうと決まれば話は早い。ワシは公衆トイレまで早足で向かう。
駅の近くにある公衆トイレは大通りからは一本奥に入ったところにあり、立地的にはあまり目立たない場所にある。それがよくないのか、治安の良くない連中が訪れることも多かったらしく、今では管理人が常駐している。それでも酔っぱらい相手には効果が薄いのか、管理人の静止も虚しくトイレの中、あるいは外で何者かが盛大にやらかした痕跡を何度か見たことがある。
そのため、管理人の中でのホームレスに対する評価はそこを突き抜けて低いだろう。
だからこそ、少しの力添えでも今より評価を上げることは可能なはずだ。
公衆トイレについたワシはいつものように管理人に声を掛ける。
ワシ「こんにちは。なにかお困りごとはないかな?」
管理人「ああん? それ本気で言ってるの?」
ワシ「驚かせてしまってすまない。だけど、さっきの言葉は本気も本気だ」
管理人「嬉しいサプライズって感じ?」
ワシ「嬉しいサプライズって感じ」
管理人はワシの目をジッと見つめて、ワシが冗談を言いに来たのか本気で言っているのかを判断しているようだった。それに応じ、ワシも真剣な顔で管理人を見つめ返す。
管理人「……ふーん、まあ、助けてくれるって言うなら勝手に手伝ってもらうのは構わないけど、何もお礼はできないからね。昨日だってここに酔っぱらいのホームレスがきて散々だったんだから」
しばらく考えていたが、ワシの誠意が伝わったのか一応手伝いを了承してくれた。第一関門突破だ。
ワシ「それに関しては本当に申し訳ないと思っているよ。今日はワシらの仲間の埋め合わせをしに来たんだと考えてくれ」
管理人「それは頼もしい。それにちょうど今、手伝ってほしいことがあったからね」
ワシ「お、それはよかった。ワシに頼みたいことはなんだ?」
管理人「ついてきな」
管理人は清掃中と書かれたパネルを入口に置くと、手招きをしてワシも中に案内される。
男性用トイレの中は小便器が4つ、個室のトイレが同じく4つ、手洗い場が2つのいかにもといった作りになっている。管理人は昨日ホームレスの酔っぱらいが汚していったと行っていたが、すでにその痕跡はなく、キレイに掃除されていた。しかし――
ワシ「うぇ、なんだこの臭いは」
――あまりにもそこは臭すぎた。アンモニア臭というより、アンモニア臭と腐敗臭が混じったような、とにかくひどい臭いがトイレに充満していた。
管理人「そうだろう? ここ最近、どこかの酔っぱらいバカがトイレに何かをつまらせたのか個室トイレの2つはつまりっぱなしで水が流れない。おまけに手洗い場も一つ水漏れで使用不可さ。アンタにはこれをどうにかしてほしいんだ」
おいおいマジか。手洗い場はともかく、個室トイレの方は相当ひどい状態だぞ?
ワシ「清掃用の道具とかはあるのか?」
管理人「つまりを取り除こうとして使ったら壊れちまったよ。雇い主の市当局に替えを要求してるところだけどいつ届くかって感じ」
ワシ「おいおいマジか」
思わず心の声が漏れるほどにマジかって感じだ。道具無しであの詰まりをどうにかしろってことだが、それはつまり――いや、今は考えるのはよそう。とりあえず手洗い場の水道管からだ。
現実逃避も兼ねて、ワシはまず手洗い場の水道管から取り掛かることにする。蛇口を捻ってみるとチョロチョロと水がでるが明らかに水量が足りない。下の水道管を見るとパイプとパイプのつなぎ目から盛大に水が吹き出ている。わかりやすくここが原因だろう。ワシはゴミ捨て場で手に入れた護身用のレンチを使ってつなぎ目のネジを締める。
すると漏れ出ていた水は出なくなり、頭上から激しく水が出る音が聞こえてくる。どうやら成功したみたいだ。ワシは蛇口をひねり、水を止める。
管理人「お、こっちは治ったみたいだね。ありがとう」
ワシ「お安い御用だ」
管理人「じゃあ、次はアッチだね」
管理人が試すような表情でトイレの奥の方に視線を向ける。ワシも振り返るとそこには異臭の原因である個室のトイレが目に入る。
……さて、覚悟を決めるときが来たようだ。
¥¥¥残金:3191クラウン¥¥¥
・バッドステータス
◯ずぶ濡れ(重度)