アナトリーが言うには、ブレケケという変わり者のホームレスが嫌がらせのために役に立ちそうな動物を集めているらしい。
考えてもわからないことについてはひとまず置いておき、ワシはブレケケの元へと向かう。
ワシ「こんにちは」
ブレケケ「ブレケケ!」
なるほど。これは変わり者だ。
彼は何を聞いても「ブレケケ!」としか答えない。ただ、こちらの意図は伝わっているようで質問に対して若干「ブレケケ!」の答え方に変化がある。なんとなくわかってきた。
ワシ「わけ合って、小さい動物を探しているんだが、アンタなら用意できると聞いてな」
ブレケケ「ブレケケ!(彼は近くの死んだ鳥を指差す)」
ワシ「おお、それか。一羽譲ってほしいんじゃが、どうだ?」
ブレケケ「ブレケケ……(ブレケケは奥にいる男を指差す)」
どうやら彼の許可があればOKということらしい。
ワシ「なるほどな。おい、アンタちょっといいか?」
ナゲット「なんだ貴様! その無礼な態度は!」
なるほど。コイツはコイツで一癖ありそうだ。
ワシ「これはこれは陛下、気が付きませんで大変失礼いたしました」
ナゲット「ふん、わかればいいのだ。ここはワシの王国! ナゲット国王とその従者、ブレケケが治めている王国なのだ!」
ワシ「なるほど。そうだったのですね。ところで、陛下の従者であるブレケケが助けてくれると伺ったのですが」
ナゲット「ふむ、誰から聞いたかは知らんが事実であるぞ。ブレケケは鳥捕りの名人であるからな。それを剥製にするのがこの国の主な財産源なのだ」
ワシ「それはすごいですな陛下」
ナゲット「剥製なら一羽――」
ワシ「いえ、陛下。私めが欲しているのは剥製になる前の鳥なのです」
ナゲット「ほう、であるなら……そうだな。100クラウンでどうだ?」
ワシ「かしこまりました陛下。こちらをお収めください」
ナゲット「ふむ、ではそこの従者より受け取るが良い」
ワシ「謹んでお礼申し上げます陛下」
やれやれ、ごっこ遊びもここまでくれば大したもんだ。
さて、これで小道具は整った。後はワシがどうするか、だな。
答えがでないまま、ワシはスパルナの店に到着してしまう。
スパルナは別の客と話しており、何かするなら今がチャンスだ。
ワシは鳥の亡骸を手に持ち、こっそりと展示品の鳥籠に入れようとして――すんでのところで手を止めた。
やはり、これはワシの流儀に反する。
ワシは生きるために必要な事はやると決めたが、そうではないことは極力やらないようにしたい。他人から見たら同じかもしれないが、ワシの中ではそこに明確な境界線があるのだ。
必要のない行為で人に迷惑をかけてしまったら、それはホームレスでもなく、ただの犯罪者だ。と、ワシはそう思っていることに気がついた。
それに気がつけただけでも良かった。
ワシはこのまま店を出ることにした。
スパルナ「いらっしゃい! あなた、この前もここに来てくれてたわよね」
ワシ「や、やあ」
なんと、ワシが葛藤している間に接客が終わっていたらしい。スパルナは退店しようとしたワシに声をかけてきた。
スパルナ「あれ、その手に持っているのって……鳥?」
スパルナはワシが手にしているモノに気がつく。
緊張するが、こうなってしまっては致し方ない。ワシはなんとか誤魔化すことにした。
ワシ「ああ、店の中に、そこにいたんだ」
スパルナ「死んでる? うーっ、どうしたらいいのかしら……」
若干不自然なもの言いになってしまったが、スパルナは鳥の方に注目していて気がつく様子はない。
ワシ「このまま外に捨ててくるよ」
スパルナ「まって! この袋を使って! それから手も洗ったほうが良いわね。こっちへ来て」
ワシ「え、でも」
スパルナ「いいから!」
スパルナはぐいぐいとワシの背中を押して店の奥、手洗い場までワシを連れて行く。
他に選択肢がなさそうなので、ワシは鳥を袋に入れて結び、ゴミ箱に捨ててから手を洗わせてもらう。
手を洗っている最中、スパルナが話しかけてくる。
スパルナ「ねえ、あなたホームレスなんでしょ」
ワシ「……どうして?」
スパルナ「その服装を見たら、ね」
ワシ「まあそうだけど、そんなにひどい格好に見えるか?」
スパルナ「気を悪くしないでね。でも、少なくても今はそう見えるってだけ」
実際、今は生きるのに精一杯で格好にまで気が回っていない。見る人が見たら一瞬でホームレスだとわかるのだろう。
スパルナ「あなた、ちょっとだけ私の仕事を手伝ってみるつもりはない? 少しだけどお給金もだすから」
ワシ「……仕事はやる。だが、給料はいらない」
スパルナ「遠慮しないで! このチラシを全部配って欲しいの。終わったらここに来てね。その時に支払いをするからね」
ワシはスパルナからチラシを受け取り、店を出る。給料については断り切ることができなかった。
とりあえず、ワシは今の状態を説明するために一度アナトリーの店へと向かう。
アナトリー「いらっしゃい――って、アンタか。うまくいったか?」
ワシ「うまいこと鳥は手に入れたよ。まあ、それも彼女に見つかっちまったけどな」
アナトリー「じゃあ、何も収穫はナシか?」
ワシ「いや、チラシを貰ったよ。配ってくれって」
アナトリー「どれ……まあ、洗練されたものではないが、一定の効果はあるだろうな。とりあえずこっちで処分するから渡してくれ」
ついに来たか、一度引き受けてしまった以上、ワシがキッチリとケジメを付ける責任があるだろう。
ワシは意を決して口を開く。
ワシ「……いや、アナトリー。このチラシは渡せないよ。このまま配ることにしたんだ」
アナトリー「あん? なにを言ってんだ?」
ワシ「言葉どおりの意味だ。このチラシはスパルナの依頼どおりに配る。悪いが、この取引はナシだ」
アナトリー「おいおい、冗談きついぜ。どうしちまったんだ?」
ワシ「どうかしているのはアナトリー、お前の方だ。他店を落として掴んだ成功に意味はあるのか? また、別の店ができるだけだ」
アナトリー「もういい、出ていってくれ」
アナトリーは目線をワシから外し、奥に行こうとする。ワシはそれを無理やり止め、話し続ける。
ワシ「いいや、止めないね。アナトリー、お前の店の売上が下がったのはスパルナの店のせいじゃない。彼女の店はお前の言うように確かになんでも揃っていたし安かったさ。ただし、なんでもとはいえ扱っている商品のほとんどは生活用品、しかも安いとは言ってもそれは新品価格としては、だ」
アナトリーは顔を伏せつつもワシの話を聞いてくれる様子だ。ワシは熱を込めて更に続ける。
ワシ「アナトリー、お前は彼女の店に直接足を運んだことがあるのか? ないだろう? あるならお前ほどの男が気が付かないはずがない」
アナトリー「それは……」
ワシ「彼女の店にはなくてお前の店にはある強みは何だ? 中古品を低価格で売買できるところだ。その中には生活用品もあるが、大型家具とか衣類とか、バリエーションで言えばこの店のほうが充実してる。そもそもが違うコンセプトの店なんだよ」
ワシはアナトリーの店とスパルナの店を見比べて思ったことを率直に伝え、思っていたことを全てぶつける。
ワシ「アナトリー、お前は軽い気持ちで彼女の店の邪魔をしようとしたのかもしれないが、そういうお前の弱いところがこの店を衰退させているんじゃないか? 違う武器を持ってるんだから、もっと清々商売するべきだ! どうだ、違うか?」
アナトリー「……ああ、ぜんぜん違うね。この嘘つき野郎。とにかくこの店から出ていけ!」
アナトリーは大声で叫び、ワシを店から追い出し、大きな音をたてて扉を閉める。
……ああは言っているが、ワシが伝えたかったことは多分伝わったはずだ。後は時間が解決してくれるのを待つばかり。
これでよかったんだ。
そう自分に言い聞かせつつ、ワシはスパルナから預かったチラシを無心で街行く人に配り続ける。
そして、気がつくと手元からチラシが失くなっていることに気が付き、報告しにスパルナの元へと戻る。
ワシ「配り終わったぞ」
スパルナ「ああ、それは良かったわ。ほら、お金を用意したから持っていって」
ワシ「いや、ワシは――」
スパルナ「どうして? ほら、自分の格好をみてごらんなさい。ほら、受け取って」
その後も何度か断ろうとするも、最終的にはほとんど押し付けられるような形で給料を受け取ってしまう。
ワシ「ありがとう」
スパルナ「元気だして。頑張るのよ」
そう言ってスパルナはワシを見送ってくれる。もしかしたら、あの鳥はワシが用意したものだってうすうす気がついていたのかもしれない。
それでも彼女はワシを一人の人間として扱ってくれた。そういう人に危害を加えるのはやはり正しいことではない。ワシももちろんだが、アナトリーもこれを機に考えを改めてほしいものだ。
だが、頼まれ事をこちらの都合で不意にしてしまったのも事実。アナトリーにもまた誤りに行く必要があるかもな。
そんなことを思いつつも、ワシは最近感じていた心のモヤモヤから開放されて、久々に清々しい気持ちで待ちを街を歩くことができたのだった。
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