カーディナルから聞いた話では、ホームレス殺人事件について調べているという記者はここらへんのバーに滞在しているということらしい。
このあたりのバーといえば、クレイジーが率いる特殊技能ホームレスグループがいるところの近くにある「バー・スパーク」だ。まずはここに行ってみよう。
「バー・スパーク」は店主が凝り性で、置いてあるお酒の種類が豊富なことで有名なバーだ。時々、他店舗ではめったにお目にかかれないとても貴重な酒も仕入れられるルートを持っているとか。まあ、それでも常にあるわけではないらしいが。
そんな話を酒徒の誰かから聞いたことがある。
実際に「バー・スパーク」に来たのは初めてだが、イメージとは違って結構こじんまりとした店だった。考えてみれば店主が一人で切り盛りしているとのことだから当たり前といえば当たり前なのだが。大通りに面した場所にあるが歩道橋の下にあるため入り口付近は薄暗く、正直入りにくい。
しかし、ワシはホームレスだ。失うものはなにもないため堂々と店の引き戸を開けて入る。
ワシ「じゃまするよ」
店主「いらっしゃい」
店内は外観から想像するよりは広く、カウンター席が5席とボックスシートが3つ、小テーブル席が1つと割と大人数でも対応できそうな奥に長いタイプの店だった。
一応、一般人が利用するところに顔を出すことがわかっていたから、ワシが所有している服の中でも最もまともに見えるような服装に着替えてきている。その効果があったのか、店主はワシを見ても挨拶以上のことは特に何も言わない。これで遠慮なく聞き込みができるというものだ。
幸い、今は店舗に客が一人しか入っていない。そいつはメガネを掛けた30代後半ぐらいの痩せ気味の男だった。記者という話だが、足で成果を稼ぐタイプだからなのか、または危険な話題に首を突っ込むためなのか、顔からは想像できないくらいに身体は筋肉質であり、戦えば確実に勝つことは不可能だろうと思わされる。
ワシ「アンタがホームレスの事件を追っているっていう記者さんかい?」
マーティン「ああ、そうだが」
ワシ「ワシもホームレスなんだが、実は最近起こっているホームレスの殺人事件について調べていてな。アンタもこの事件を調べているっていう話を聞いて探していたんだ」
マーティン「へえ、それで僕がここにいるって知って会いに来たんだ? 大したもんだね」
マーティンは少し驚いたように軽く目を見開く。このリアクションの大きなところは職業柄だろうか、相手から話を聞き出すために意図的にやっているとしたら優秀な記者であろうことが推測される。
ワシ「ワシはいろいろなホームレスグループに知り合いがいてな、結構顔は広いほうだ。それでアンタがここにいることも突き止められた。アンタのこの一連の事件に対する見解を教えてほしい」
マーティン「ああもちろん。といっても、あなたもすでに聞いたと思うが?」
ワシ「誰かの陰謀論ってやつか?」
マーティン「そこまで知っているなら話は早い。この一連の事件は誰かが意図的に始めたことだ。僕のこれまで経験がそう言っているんだが、いかんせん証拠がない。僕ではホームレスの人たちから得られる情報も表面的なものになってしまうからね。ここでどうしようかとずっと悩んでいるってわけだ」
なるほど、確かにホームレスはホームレス感の繋がりが強い分、部外者への当たり方は多少強めになるかもしれない。ほとんどが羨望からくる嫉妬心だろうが。
マーティン「そこでだ。あなたはどうやら僕とも対等に話をしてくれるらしい。どうだろう、情報収集のバイトをやってみる気はないか?」
ワシ「ワシがあんたのタレコミ屋になれってことか?」
マーティン「もちろんタダでとは言わない。僕の掴んだ情報は提供するし、いい情報を持ってきてくれたら美味しいご飯を提供しよう」
ワシ「悪い話じゃなさそうだ。よし、取引成立だ」
マーティン「そうこなくっちゃ」
こうしてワシはマーティンと協力関係となった。
誰かの陰謀によってワシらの同士が消されている。その刃がいつ自分に向くかもわからない。自衛のためにもこの事件を追う価値はありそうだ。
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・バッドステータス
◯なし