第13回 生きるための武器

 その日、ワシはランゴスに教えてもらった場に向かい鉄屑バイトをしようとしていた時だった。

 ふと視線を感じ、振り返るとそこに男が立っていた。

 身なりからしてワシと同類だと感じた。バイトを終えてから男に話しかける。

ワシ「よお相棒。そんなに見られてると照れるからやめてくれ」

フィン「おお、それは悪かったな」

ワシ「こんなところで何をしてたんだ?」

フィン「ほとぼりが冷めるのを待ってるのさ。ここは人目につきにくいからな」

ワシ「商売?」

フィン「通行人のポケットの中をちょいと整理してやってるのさ」

ワシ「なんだ。そんなんで生活がなりたつのか?」

フィン「よほどの間抜けじゃなければな」

ワシ「そんなことは誰にだってできる。クズに成り下がる勇気さえあればな」

フィン「おいおい、そんなにツンケンすんなよ。あんたにはクズに成り下がる勇気があるようには見えないけどな」

ワシ「なれるさ。生きるためには少しばかり非常になることも大切だって最近学んだんでね」

フィン「ふーん。じゃあ少しお手並みを見せてくれよ。もし、本当にやれるなら頼みたいことがある」

ワシ「いいとも。ここで少し待ってな」

 そう言ってワシは大通りへと繰り出す。

 ああは言ったが人から直接盗みなんてやったことがない。どうしたものか。

 とりあえずいつもの感じで通行人に話しかける。

ワシ「やあ、こんにちは」

通行人「こんにちは」

 お、反応ありだ。どうするか、とりあえずやってみよう。

 ワシは雑談したあと、あえて成功しにくい言い方で物乞いをし、案の定物乞いは失敗する。

ワシ「そうか、時間をとらせて悪かったな。それじゃーーっと」

 ワシはよろけたフリをしつつ相手に倒れかかる。

通行人「おっと、大丈夫か」

ワシ「ああ、悪いな」

 もたれかかりながら立ち上がる。

 この瞬間、ワシは相手のポケットに手をツッコんで何かをにぎり、すばやく自分のポケットにしまう。

ワシ「助かったよ。それじゃあ、よい一日を」

通行人「ああ」

 ……成功だ。

 なぜだろう、やろうと思った瞬間に身体が次にどう動くべきかを既に知っているような動きだった。

 記憶を失う前にもこうして日銭を稼いでいたのかも知れない。

 手に入れたのはレモンだった。もう少し手の感覚が鋭くなればよりいいアイテムが素早く手に入るかも知れない。

 とにかくお題をクリアしたのでフィンのところに戻る。

フィン「おお、早かったな」

ワシ「まあな。ほら、これが成果だ」

 ワシは盗って来たレモンをフィンに見せる。

フィン「どうやら、口だけじゃなかったようだな」

ワシ「当たり前だ」

フィン「よし、それじゃあ少し頼み事だ。聞いてくれたら俺の技を教えてやる」

ワシ「何をすればいい?」

フィン「ここの近くにアナトリーってヤツがやっている質屋があるんだが、そいつの店から手紙を盗んでほしいんだ」

ワシ「わかったが、なんで自分ではやらないんだ?」

フィン「俺はあいつに顔が割れてるからな」

ワシ「なるほど。そういうことなら任された」

フィン「期待して待ってるぜ」

 ワシは意気揚々とアナトリーが営んでいるという質屋まで向かうことにした。

 盗み、できることなら進んでやりたくはないが、この技術があればより強く生きていけるだろう。持たざる者であるワシには少しでも武器があったほうが良い。

 技術を学ぶため、ひいては生きるためにワシは盗みに手を染めることを決意した。

¥¥¥残金:44クラウン¥¥¥

・バッドステータス

◯全パラメーター−10(永続)

◯体力低下(生命の危機)

※主人公は盗みに手を染めてしまいましたが、現実社会で盗みに手を染めることはやめましょう。あくまでフィクションとしてお楽しみくださいませ。

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