第19回　酒徒のリーダー：ザッヒ

　ヘロルドから物乞い王を決める選挙が始まるという話を聞き、ワシは物乞い王になりたいと考えていた。

　当選するには有力なホームレスから投票して貰う必要がある。現在、投票権をもっているホームレスは８名、そのうち６名から投票を得ることができれば当選することができる。

　投票権を有しているホームレスのうち、関わりがあるのは２名。酒徒のリーダー：ザッヒ。専門的な技術を持っているホームレスのチームリーダー：クレイジー。

　まずはここからの投票を得ることにしよう。

　リーダーからの信頼を得るためには、直接リーダーの問題を解決するか、彼らの側近からの依頼をこなすことが必要になってくるだろう。

　とりあえず、ワシは投票のことを教えてくれたクレイジーからの信頼を得ようと思い、彼の元へと向かう。

ワシ「やあクレイジー」

クレイジー「おお、アンタか。ちょっといいか？」

　お、これはさっそく何か頼み事か。

　ワシは全身にやる気をみなぎらせつつ続きを促す。

クレイジー「さっき、酒徒の奴らが来てアンタがいないかって聞いてきたぜ。なんでもザッヒの野郎がアンタに会いたがってるらしい」

　まさかの、酒徒のリーダー：ザッヒからのアプローチが来ているとは。

　渡りに船とはまさにこのことだ。

クレイジー「じゃあ、しっかりと伝えたからな。雰囲気的に悪い話じゃなさそうだから安心していいと思うぜ。ヤツがアンタになんの用があるのかは少し興味がある」

ワシ「わかった。これから会いに行ってくるよ」

　クレイジーからの信頼を得ようと思ったが、こういうことであれば先に酒徒側からの信頼を得たほうが効率的だろう。

　ワシはザッヒのところに急いだ。

　ザッヒのいる酒徒のたまり場に行くと、ザッヒの側近であるカーディナルがワシを待っていた。

カーディナル「アンタを待っていた。ザッヒはここの地下だ。ついてきな」

　酒徒のたまり場内には地下に向かう階段があった。薄暗い中、カーディナルについていくとそこはもともと地下鉄の駅だったのだろうか、かなり広い空間が広がっていた。

　今は機能していなさそうで、列車の通り道だったであろう部分は埋め立てされているようだ。

　そんな空間の一番奥にザッヒはいた。スキンヘッドで目つきが鋭く、目の奥には野心が燃えているようなそんなギラついた印象を受けた。

ザッヒ「よお、アンタが噂の新人か。カーディナルから話は聞いてるぜ」

ワシ「そうか、どんな話を聞いたのか気になるところだな」

ザッヒ「最後の酒宴を生き残り、記憶を失ったがまたここに戻ってきた馬鹿野郎。しかも、その後ウチがいろいろあってメンバーの募集を締め切ったってのに、どうしても加入したいと食い下がった挙げ句、暗に断ろうとしたカーディナルからの酒仙３人から認められるっていうお題まで楽々クリアしちまったっていう超新星野郎ってとこか」

ワシ「それは、歓迎されてるってことでいいのか？」

ザッヒ「単刀直入に言おう。アンタの狙いはなんだ？　なぜここまで俺達にこだわる？」

　……これは、回答を間違えたらただじゃすまなさそうな雰囲気になってるな。

　少しだけ躊躇したが、ワシは率直な思いを嘘偽りなく伝えることにした。

ワシ「記憶を失っちまったから、記憶を取り戻すヒントが少しでもほしくて必死になっていただけだ。どうやら記憶を無くす前もロクな人生じゃなかったようだから今となってはどうでもいいがね。ただ、今は違う。この新しい人生を謳歌するためにワシは物乞い王を目指すことにしたんだ。ザッヒ、あんたの投票がほしいからワシは今ここにいる」

ザッヒ「物乞い王に？　そいつはケッサクだな。悪いが俺は俺に投票予定だ、少なくても今はアンタの入る余地はないね」

ワシ「今は、ね。どうだろう、酒徒の困りごとは全て解決してやろう。そうしたらワシに投票する気になるんじゃないか？」

　そういうとザッヒは黙り、さっきまでとは違い真剣な眼差しでこちらの覗き込んでくる。

ザッヒ「いいねえ。そういう野心的な男は嫌いじゃない。いいだろう。カーディナル、あとはお前に任せた」

カーディナル「いいのか？」

ザッヒ「ああ。いろいろとやってくれるってんだ。好意には甘えるべき、そうだろう？　活躍によってはアンタに投票してやっても良い。まあ、せいぜい頑張れよ」

　話は終わったとばかりに、ザッヒが地上に連れて行くようカーディナルに命じる。

　地下から地上に戻る道中、カーディナルが話しかけてくる。

カーディナル「というわけだ。俺個人としても問題を解決してくれると言うなら助かる。応援してるよ」

ワシ「期待に添えるよう頑張ってみるつもりだ」

カーディナル「手伝いたい時は俺に話しかけてくれ。その時に必要なことがあればアンタに頼むとするよ」

　こうしてワシは酒徒の抱える問題を解決することとなった。まずはここからスタートだ。やることがあるってのは素晴らしい。

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備考・物乞いの才能が開花。お金集めが趣味になった。

・バッドステータス

◯酔っ払い（軽度）